Q.古墨は製造よりどのくらいの年数を経たものをいうのですか。
A.大変難しいご質問です。墨を造る私達は、新墨の期間を3〜5年と考えています。 これは墨を造る時に必要な膠の量が、この期間に加水分解され書く時に必要な膠の量に近づいてきますし、墨の持つ水分量も安定して、加水分解もこれ以後はゆっくりしたものになるからです。 墨の寿命は墨がどのような環境の下に保存されるかにかかっています。 湿度100%・ 気温30℃で放置しますと1ヵ月ももちません。温度、湿度の比較的低い条件の良い所(土蔵など)で保存致しますと数百年の寿命をもちます。墨は我が身を磨り減らしてその役目を果たす物ですが、一方墨自体は湿度に大変弱い物なのです。 同じ日に製造した百丁の同質の墨が、未使用のまま10年後には、それぞれの環境の影響を受け完全に駄墨になり果てた物から、昨日造った物かと思える物まで百種類の異なった墨に変身するのです。 現在、日本に保存されている明代や清代の墨の中に、完全に膠の生きている見事な墨が残っています。これは大名の道具飾りなどとして、水を見ること無しに最高の保存環境の中で伝来して来たものです。 墨の枯れは、言い換えれば、膠という蛋白質の自然界における分解の過程なのです。墨造りの独断と偏見で申しますと、湿度の少ない机の引き出しなどに桐箱などに入れて保存された状態で、最も書き易くなる製造後10〜15年経過した墨から古墨と言っていいのではないかと思います。 墨造りから考えます古墨とは、現在使用に耐える墨であり歴史的、骨董的価値ではありません。
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